2008年8月5日火曜日

001 崖の上のポニョ

原作・脚本・監督:宮崎駿

2008年 日本


「表面的にはかわいく見えるけど、実はとても恐い映画だ」と友人に言われ、見に行ってみました。

なるほど。。。。これは確かに非常に恐い映画です。

まるで満面の笑みで「人類は滅亡しますよ」って言われるみたいな()。。。

この映画は宮崎作品の中では異色作と言われるでしょうけれど、時間が経つに連れて評価されるようになる作品ではないかなぁとも思います。

やっぱり宮崎監督の創造力には驚かされます。

僕もそれなりに映画を見て来ているつもりですが、アイディア、コンセプト、構成、、、その多くが今までこの世に存在していなかったものであり、「まだまだあるかぁー」と思わされます。

この物語は、当の昔に「人間」というレベルを超えて海の神になった「藤本」 (なぜか日本人名、笑)と女神の間の「神の子」であるポニョが、神という身分を捨てて愚かで残虐な人間になり、人類滅亡の危機を救う「神話」なんだと思います。

その重いテーマを「ポーニョ、ポーニョ、ポーニョ、さかなの子♪」な〜んていう歌と共に、絵本タッチでかわいらしく描いているので、「ポニョが人間になる話」として単純に片付けられる可能性はあるかもしれませんが、実のところは宮崎版「ノアの箱船」で、シーン、キャラクター、それぞれに様々な解釈が出来るので、この作品は見れば見るほど、左脳と右脳の情報交換が激しくなりそうです。

この作品で特に印象に残ったのが、大洪水ですべてが水の中に埋もれてしまったのに、当の人間たちは全く危機感がなく、ごくごくフツーなんですよね。

これはおそらく、環境が危機に瀕しているのに、全く気づかずにのほほーんと過ごしている現代日本人そのままなんですよね。

こういう表現方法があるのかーと、個人的には結構衝撃を受けました。

この作品では、宮崎監督流の「娯楽映画理論」と、映画が人に与える影響について、再び考えるきっかけになりました。

宮崎監督は対談本の『風の帰る場所』(発行:ロッキング・オン)において、「真の娯楽とは、入り口を広くし、敷居を低く設けておいて、出口では期待していなかった方向に観客を啓蒙すること」というような事を書かれていました。

僕の中ではこの思想が今でも「娯楽映画のあるべき姿」として哲学になっているんですが、宮崎監督の巧妙なところは、一見、子供向けの作りをしていて(=広い入り口を設けておいて)、実のところ、深〜いテーマを忍ばせ、その哲学を優れたイメージで子供達の潜在意識に植え込もう(=期待していなかった方向に観客を啓蒙)という試みでしょう。

彼の作品はいつも概ねそうですが、かわいらしい作りをしつつも、中身はしっかりとした現代人批判であり、これからの人類のあるべき姿を明確に描いている(結局は神頼みな事が多いですが)

これを今の子供たちが見たら、そのかわいい外見から、ビジュアルを素直に受け入れると同時に、裏のテーマもしっかりと脳の深いところに植え付けられるんだと思うんです。

よくよく考えれば、彼が20数年前に発表した「ナウシカ」と「ラピュタ」も冒険娯楽活劇の様相を呈しながら、実のところは現代人批判と環境保護を訴えており、このテーマを子供の頃に潜在意識に植え付けられた僕ら、70-80年代生まれの多くは、2008年現在、環境に対する意識が上の世代よりも高くなっているんじゃないか、、、と言うのが僕の印象です。

宮崎監督は天才的に表現方法が上手いから、見方を変えれば究極のマインド・コントロールになるわけですね。

これはちょっと危険な事だと言えなくもありませんが、最高級の表現方法という言い方もでき、分かり易い入口と明確なテーマを持った出口を用意する、という宮崎流娯楽思想は、多くのビジネスマンにとって、商品・サービスを顧客の潜在意識にアピールするための重要なヒントが詰まっているのではないかなーと思います。

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